優秀な看護師が辞めるクリニックの共通点

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「また辞めてしまった…」採用と離職に疲れていませんか?

「やっと採用できたと思ったら、3ヶ月で辞めてしまった。」
「求人を出しても応募が来ない。来ても、なぜかうちを選んでくれない。」

クリニックを経営していると、こんな悩みを抱えている院長先生は少なくないはずです。私自身も保健師として働きながら、複数のクリニックや医療機関を経験してきました。そのなかで感じたのは、「辞めたくなるクリニック」と「ここに居続けたいと思えるクリニック」には、はっきりとした違いがあるということです。

2026年6月の診療報酬改定を控え、医療業界では賃上げや処遇改善の動きが活発化しています。これは言い換えると、「今まで不満を抑えていたスタッフが動き出すタイミング」でもあります。採用と定着に悩むクリニックにとって、いま一度立ち止まって考え直す絶好の機会です。

問題の本質:「給与」より「見えない部分」で選ばれている

院長先生が採用に苦労する原因として、多くの方が「給与が低いから」と考えがちです。確かに報酬は重要な要素ですが、看護師が職場を選ぶ際の決め手は、それだけではありません。

厚生労働省のデータでも、看護師の離職理由の上位には「職場の人間関係」「労働環境・条件」「自己成長の機会がない」といった項目が並びます。つまり、「月給1万円アップ」より「職場の雰囲気」や「院長との関係性」が離職の本当の引き金になっているのです。

採用ページに「アットホームな職場」「やりがいのある仕事」と書いてあるクリニックは多いですが、それは求職者から見ると「どこでも書いてある言葉」です。実際の職場環境が伝わらなければ、求職者は口コミサイトや知人の評判に頼るしかなく、情報の空白が不信感を生みます。

ホームページで「院長の想い」や「スタッフの声」を発信しているクリニックとそうでないクリニックでは、同じ求人を出しても応募数に大きな差が生まれます。採用は、求人票を出す前から始まっているのです。

優秀なスタッフが離れる3つの理由

① 「何を求められているか」が曖昧

クリニックでは業務範囲が病院に比べて広く、「何でもやってもらう」前提で採用されることが多いです。しかし、仕事の範囲や責任の所在が明確でないまま働き続けると、スタッフは徐々に疲弊してしまいます。

私自身も以前、あるクリニックで「とりあえず何でもやって」と言われた経験があります。受付、処置、電話対応、在庫管理……気がつけば、専門職としての誇りよりも「消耗」を先に感じるようになっていました。「あなたに任せたいこと」が明確な職場こそ、スタッフが長く働き続けられる環境です。

業務マニュアルや役割分担が整備されていないクリニックは、優秀なスタッフほど早い段階で不満を抱えます。なぜなら、能力がある人ほど「なぜこんなに非効率なのか」と感じやすいからです。

② 「評価されている実感」がない

看護師・医療スタッフは、患者さんのために一生懸命働いています。それなのに、頑張っても頑張らなくても給与が変わらない、院長から何も言われない——こうした状況が続くと、モチベーションは確実に低下していきます。

特に小規模クリニックでは、評価制度がなく「全員一律」になりがちです。これは一見公平に見えますが、優秀なスタッフほど「なぜ私が一生懸命やっても報われないのか」と感じ、離職の判断を早めます。「あなたの仕事はちゃんと見ている」という実感が、スタッフを職場につなぎ止める一番の力になります。

「ありがとう」「助かりました」という一言が、実は給与と同じくらい——あるいはそれ以上に——スタッフのやる気を引き出すことを忘れないでください。

③ 「院長との距離」が遠すぎる

多忙な院長先生は診療に集中するあまり、スタッフとのコミュニケーションが疎かになることがあります。「挨拶すらない」「相談しても流される」「改善提案をしても変わらない」——こうした状況が積み重なると、スタッフの心は静かに職場から離れていきます。

看護師・保健師として働いてきた経験から言えば、「院長が話しかけてくれる」「ありがとうと言ってくれる」という小さなことが、職場を続ける大きな理由になっていることは珍しくありません。診察室を出てスタッフに声をかける5分間が、採用コスト数十万円の節約につながるのです。

また、クリニックのホームページに院長のメッセージや人柄が伝わる情報が掲載されていると、「この院長の下で働きたい」と思える求職者が集まりやすくなります。採用はオフラインだけでなく、Webからも始まっているのです。

具体的な解決方法:採用と定着を変える3ステップ

ステップ1:採用ページを「リアルな職場の声」で作り直す

求職者が最も知りたいのは「実際の職場の雰囲気」です。スタッフのインタビューや、一日のスケジュール、よくある業務内容を具体的に記載することで、ミスマッチを防ぎ、「ここで働きたい」と思える人だけが応募してくれるようになります。

「残業なし」「週休2日」といった条件面だけでなく、「どんなクリニックを目指しているか」「スタッフにどう成長してほしいのか」という院長の言葉を載せることで、価値観の近い人材が集まりやすくなります。採用ページはいわば、あなたのクリニックの「顔」です。

ステップ2:入職後3ヶ月の「壁」をなくす仕組みを作る

離職が集中するのは、実は入職後3ヶ月以内です。新しい環境への不安、仕事の覚えにくさ、人間関係の構築——このフェーズを乗り越えられるかどうかが、定着の鍵を握ります。

チェックリスト形式の業務マニュアルを作る、定期的に1on1の面談を行う、先輩スタッフがサポートするバディ制度を導入するなど、「迷ったときに頼れる仕組み」を用意するだけで、離職率は大きく変わります。コストをかけなくてもできることから始めてみましょう。

ステップ3:「感謝」を仕組み化する

忙しい診療の合間に、全スタッフに声をかけることは難しいかもしれません。しかし、週1回のミーティングで「今週助かったこと」を共有する、スタッフの誕生日にメッセージを送る、改善提案があったら必ず返答するなど、「あなたのことを気にかけている」というサインを仕組みとして組み込むことはできます。

小さな積み重ねが、スタッフにとっての「ここに居続けたい理由」になっていきます。「感謝を伝える文化」は、最もコストパフォーマンスの高い定着施策のひとつです。

今日からできる具体アクション

「どこから手をつければいいかわからない」という院長先生のために、明日から実践できる3つのアクションをまとめました。

  1. スタッフ一人ひとりに「最近、困っていることはありますか?」と声をかける(所要時間:各2〜3分。週に一度のルーティンにするのが理想です)
  2. 採用ページを見直し、「スタッフの声」の欄を追加する(既存スタッフへの短いインタビューから始めるだけでOK。写真一枚と一言コメントでも十分です)
  3. よく使う業務の手順書を1つ作ってみる(処置の手順や電話対応フローなど、A4一枚から始めてみましょう)

大きな改革は必要ありません。「小さな変化の積み重ね」が、スタッフにとっての「居心地の良い職場」を作っていきます。

まとめ

2026年の診療報酬改定を機に、医療業界では人材の流動化が加速しています。採用難・離職問題は単に「給与の問題」ではなく、職場の仕組みや文化、院長との関係性が複合的に絡み合っています。

看護師・保健師として現場を経験してきた立場から言えるのは、「スタッフを大切にしているクリニック」は、患者さんにも伝わるということです。スタッフが笑顔で働いているクリニックは、患者さんにとっても「また来たい」と思える場所になります。

採用と定着は、クリニックのブランドそのものです。ホームページや採用ページを通じて「うちはこういうクリニックです」と発信し続けることが、長期的な経営安定につながります。まずは今日、一人のスタッフに声をかけることから始めてみてください。それが、すべての変化の第一歩になります。

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